日記: 図書館及び異常者

11月1日の日記

図書館

今日最後の講義が終わった後、まだ提出していない課題を終わらせるためにN市の図書館に寄った。学校の図書館と比べると、内装は暖色系のモダンな雰囲気で、2階はやや暗くなっている。流石に専門書の数は劣るが、長時間滞在しても退屈しない居心地のよさがあった。
新築数年の図書館は常に人で賑わっており、旧図書館のそれとは比べ物にならない。近隣に中学校・高校があり、さらには駅と住宅街に隣接しているため、幅広い年齢層の人々が図書館を訪れる。だから、いつも窓際のデスクスペースは人で埋まりきっているのだが、今日は3限目(12:50~14:30)で講義が終わったので彼らが終業する前に席を確保することができた。

最近買った不健康度測定腕輪、またの名をスマートバンドでポモドーロタイマーをセットし、映画『インターステラー』のOSTをイヤホンで聴きながら数学の課題をこなした。まるで受験生のようだが、席を取るのが難しいこの図書館で自習をすることはちょっとしたアトラクションだった。
段々人が増えてくると、左隣に受験生らしき近所の高校生、右隣にスーツ姿の女の人が座ってきた。学生と老人しか来ないものと思っていたので、その女性がラップトップを開き仕事を始めた時は少し驚いた。そうして3時間が経過した。

私はこういったパブリックスペースで一人作業をすることが苦手なはずだったのだが、課題は驚くほど順調に進んだ。タイマーか、音楽か、あるいは図書館の雰囲気がそうさせたのか。要因は分からないが、また勉強しに訪れてみようと思う。

図書館を出ると、外は日が落ちていた。既に18時をまわっており、駅に向かう人たちが見える。制服姿の高校生、スーツ姿で談笑する男女、目に入るいずれもが私の人生から永遠に失われるかもしれない要素で虚しくなる。図書館が組み込まれた建築物群は非常にモダンで都会らしさすら覚えるが、駅から少し離れると廃れた家屋とガタガタの道路が現れる。それでも利便性の高いN市のことを田舎だとは思わない。発展と退廃の汽水域を表す別の言葉が必要だろう。そんなことを考えながら自転車を漕いだ。

外食

食事処を探しながら帰ったので、いつもは通らない道を通った。街灯と車のヘッドライトが眩しい国道を逸れて高校と市役所沿いの道に入る。道はとても暗い。青白い光と機械音が漏れる小さな町工場以外、みんな死んでしまったように感じられる。

暗い道を抜けると文化会館が現れた。N市の文化会館は所謂現代建築で、道路に面した側は全面ガラス張りになっている。中では暖色の照明が灯っており、スーツ姿の人たちが何人も見える。恐らく企業か何かのイベントがあるのだろう。18時だというのに入口に整理員が立ち、駐車場が埋まっていた。

結局、新しい食事処を開拓することはなく、いつも通りN市のショッピングモールに入った。フードコートの丸亀製麺に並んで釜揚げうどんを注文する。
N市で外食をしようとすると、優柔不断な人間が数十分悩む程度には選択肢がある。だが結局いつも通りの店に入り、いつも通りのメニューを選ぶ。

毎月1日は釜揚げうどんが半額になるらしい。前回も月始めに訪れて半額になったことを思い出したが、いずれも偶然だった。野菜かき揚げとさつまいもの天ぷらも追加する。空いた時間とお金は急速に消費される。丸亀製麺の野菜かき揚げはとてつもなく油っこいが、私の胃はまだ耐えられるようだった。健康手枷スマートバンドを買ってから早死というのを意識し始めた。いつ若さの魔法が解けるかは大事に至るまで分からない。

フードコートは疎らながらも確かに人が入っていた。学校帰りの高校生たち―――皆同じ制服で本当にどこにでもいる―――と中学生が多くを占めている。18時以降に、学校指定のジャージ姿のまま、ゲームセンターに隣接したフードコートででうろついていたら一発で補導されるというのに、私の世代から変わらず学んでいないらしかった。

まだ課題が残っていたので今日はそのまま帰ることにしたが、その代わり今週金曜日・文化の日に映画を観に行こうと思った。『ジョン・ウィック』と『クリエイター』を観ようと思ったが、思い返せば金曜日11/3は『ゴジラ-1.0』の公開日だった。1日に映画3本いけるかな…

破壊

散発的に発生するエッセイストじみた気持ち悪い感傷は、2人の異常者によって、完膚なきまでに、木端微塵に、とにかく跡形もなく破壊された。

エスカレーターで1階へ下っている途中、突然階下から「あ"あ"あ"あ"!」という怒号が聞こえてきた。古典的ヤンキーの格好をした男で、彼が叫んだ瞬間周りの人間が一斉に振り向いた。その後、彼は私たちとすれ違うようにエスカレーターで2階に上り、着くと突然叫びながら飛び跳ねてわざとらしく転んだ。迷惑行為というより理性を失っており、すぐさま警備員さんが後を追った。
流石に動揺し、一瞬興味本位で後を追いかけようとも思ったが、すぐ冷静になった。とんでもない奴というのはどこにでもいるものである。無印良品に入り、心を落ち着けて外に出た。

2人目。

聞き覚えのある大声が聞こえた。彼女こそはN市で有名なヤバイ老人・通称鏡おばさん。通行人の多い通りや交差点の傍らで、手鏡を持ちながら大声で喋り続けることからその名が付いた。「交差点渡ってます!」と20メートル離れていてもハッキリ聞こえる声を上げながら、ショッピングモール敷地内の横断歩道を横切る。彼女は、内面と外界が転倒しており、道行く市民に対して己の思考についての大演説を行うのだ。

「現在、私が交差点を渡ろうとしている!」

帰宅

家族が私の夕食第二候補・マクドナルドでテイクアウトしていた。ポテトの塩が沁みる。